わがマチから“弁護士が消える”地元で相続や離婚の相談ができない…北海道で広がる“司法の砦”崩壊の現実 後任者が見つからず法律事務所が閉鎖

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普段は縁遠く感じる、法律に関する困りごと。しかし、いざ問題に直面したときに必要不可欠なものです。

北海道内では、マチに弁護士がいない“司法過疎”と呼ばれる地域があります。現場を取材しました。

名寄ひまわり基金法律事務所 元事務職員
「弁護士の先生はこっちで、ここに机があったんですよね」

北海道名寄市の中心部に、空っぽのテナントがあります。3か月ほど前まで、ここには、20年以上地域を支えてきた法律事務所がありました。

名寄ひまわり基金法律事務所 元事務職員
「いずれ、この事務所から居なくなるにしても、次の事務員に引き継いだ上で、居なくなると思っていたので、今こういう風景を見るのは、正直残念ではありますね」

事務所の名前は『名寄ひまわり基金法律事務所』。

弁護士が少ない地方に、日本弁護士連合会が設置する“公設の法律事務所”でした。

20年以上地域を支えてきましたが、後任の弁護士が見つからず、今年7月に閉鎖。

その結果、名寄市内の法律事務所は、残り1か所だけになってしまいました。

名寄ひまわり基金法律事務所 元事務職員
「相談に行く場所がなくなりますよね。離婚の件で、旦那さんが名寄のもう1か所の弁護士事務所に相談に行ったら、今度、奥さんが、弁護士つけようと思ったとき、相談に行く事務所が、少なくとも名寄市内にはないんですよ」

地域に法律事務所が少なく、住民が、法律相談や弁護の依頼などを十分にできない状態を“司法過疎”と呼びます。

名寄市民
「なんかありましたね、“たいよう”法律事務所みたいな…急になくなっちゃった感じですよね」

名寄市民
(Qどこに法律の専門家がいるかは?)
「分からないですよね…、直面したときにすごく困る」

名寄を含む、上川、留萌、宗谷と、オホーツク地方の一部は、旭川弁護士会が管轄する地域です。

この地域は、面積の広さに対する弁護士の数が、全国で2番目に少ない地域となっています。

旭川弁護士会 大箸信之会長
「“もう辞めます”と言ってしまわれて、居なくなってしまった場合、弁護士会としては、もう如何ともしがたい」

「地方の良さを発信していくっていう、そこが、なかなかどうやったら伝わるかということは悩ましいところです」

“司法の空白”を埋めるため、旭川弁護士会の管内には、6か所の公設事務所があります。しかし、大きな問題があります。

来年度以降、4か所の公設事務所で、後任が見つかっていません。赴任してくれる弁護士がいないのです。

留萌ひまわり基金法律事務所 松嶋佳史弁護士
「もともと、免許は持っていましたが“ペーパードライバー”でした」

弁護士が極端に少ない“司法過疎”のマチで、空白を埋めようと、地域を走り回る弁護士がいます。

留萌ひまわり基金法律事務所 松嶋佳史弁護士
「とりあえず、ちょっとお入りください」

相談者
「いいんですか…弟がもう、うちに帰れないんですよ。(家を)解体したいと思っているんですよね」

高齢化が進む地域で、弁護士を必要とする人たちは、少なくないのです。

土地や遺産の相続、建物の解体手続きなど、司法過疎のマチで、異色の経歴を持つ一人の弁護士が奮闘を続けていました。

北海道の日本海沿岸に位置する留萌市。ニシン漁や数の子の生産が盛んな漁業のマチです。

留萌ひまわり基金法律事務所 松嶋佳史弁護士
「もしもし、お電話をかわりました、松嶋です」

留萌には、2つの法律事務所があります。いずれも日弁連が設立した事務所で、来年度以降の“後任”探しに苦労しています。

『留萌ひまわり基金法律事務所』の松嶋佳史弁護士は、異色の経歴を持っています。

岩手県の出身で、高校中退後に調理師として働き、2018年、司法試験に合格。弁護士として活動を始めました。

地方の“司法過疎”問題に関心を持ったのは、ロースクールの授業がきっかけでした。

留萌ひまわり基金法律事務所 松嶋佳史弁護士
「イメージとしては“町医者”って言われるような感じで、ちょっとした相談ですね。例えば、冬の間は隣の人が(自分の敷地に)、雪かきしてきて困っているとか…」

大都市の横浜で1年間、活動した後、北海道留萌市にやって来ました。今から3年前、2021年のことです。

松嶋さんにとって、留萌は、それまでの暮らしで、まったくゆかりのないマチでした。

留萌ひまわり基金法律事務所 松嶋佳史弁護士
「殻つきのウニが、それが1個、そこのスーパーで売っていて。結構350円だか、400円ぐらいで売っていて、もう安い…都心部だとない」

公共施設の指定管理者を決める会議や、いじめ問題の調査委員会など、法律の専門家は、地域行政にとってもなくてはならない存在です。

留萌市役所 総務課 吉田博幸課長
「法的にも、さまざま判断だとか専門的な審査もお願いしていますので、法に明るい専門家がいることは心強いです」

松嶋弁護士が担当するのは、北は遠別町から南は増毛町まで。

時には100kmもの道のりを自ら車を運転して移動。そのマチに暮らす人の困りごとに、耳を傾けます。

松嶋佳史弁護士
「弟さんの同居者?」

相談者
「無理やり入ってきて、ずっと暮らしているんですよね。(建物を)解体したいと思っていて、それで出ていってほしい」

相談者の男性は、介護施設に入った弟に代わって、弟が所有する住宅を解体し、処分したいと考えています。

男性は羽幌町に暮らしていますが、地元には法律事務所がありません。

町役場では解決できず、男性は、羽幌で開かれた無料の法律相談会を訪ね、松嶋弁護士に出会いました。

相談者
「ありがたいよな、っていうか(弁護士は)必要だなって…。手続きが大変難しい、できないんだよ、普通の人では」

留萌ひまわり基金法律事務所 松嶋佳史弁護士
「僕はもう水道とか電気と同じように(弁護士は)最低限のインフラだと思っています。人間らしい生活を送るためには、本当に必要なものだというふうに考えています」

司法は、身の回りに起きた問題を解決するための、最後の砦です。その砦が今、地方から少しずつ崩れ始めています。

・堀啓知キャスター
法律は、専門的な知識が必要ですから、弁護士への相談は不可欠ですが、高齢化が進んでいる地方で、車で1時間の距離を相談に行くというのは現実的ではありません。

・森田絹子キャスター
全国的には、裁判手続きのオンライン化も進んでいます。

ただ、取材した松嶋弁護士によると、個人情報が多く含まれた証拠は、情報漏えいの危険から、オンラインで扱うのが難しいことや、高齢者は家にネット環境が整っていない人も多いことなどから、対面での相談が欠かせないということです。

・堀啓知キャスター
地方だと経済規模も小さいですから、法律事務所の経営環境も厳しい現実があります。

旭川弁護士会では、地方での仕事に興味を持ってもらうため、司法修習生を対象とした“司法過疎”地域でのバスツアーなどを実施しているということです。2024年11月24日(日) 08時00分 更新

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